ナムラコクオー物語(4歳編・その4)

東京優駿

 そして迎えたダービー。ナムラコクオーはナリタブライアンに次ぐ2番人気。単勝オッズは8.6倍。ナリタブライアンとの馬連オッズは3.8倍。ナリタブライアンの圧勝が予想され、そして、2番手グループの中ではナムラコクオーの力は断然…というのが前評判(3番人気サクラエイコウオーの単勝オッズは15.9倍)。
 ナリタブライアンVSナムラコクオー。南井克巳VS上村洋行。大久保正陽VS野村彰彦。ブライアンズタイムVSキンググローリアス。
 上村騎手には、田島良保騎手を超える最年少ダービージョッキーの名誉がかかることになりました。当然、ダービーは初挑戦。

レース前の状況を。
 まず、Number恒例ダービー特集の生産者伊藤真継氏のコメント
 ウチの馬がこんなに走るようになるとは、調教師さんも馬主さんも考えていなかったんじゃない(笑)。ウチはアラブが主でサラブレッドをはじめたのはここ10年ばかり。アラブも含めて年に8頭くらいしか生産していない小さな牧場だから、配合とかも贅沢はできないんですよ。母馬のケイジョイナーにキンググローリアスをつけたのも、軽種馬協会の種馬で、種付け料が割安というのが魅力だったからです。協会の配合検査と抽選次第なんですが、うまくいけば付けられるかな、という程度の淡い期待でした。
 ケイジョイナーは浦河の牧場から譲り受けた馬ですが、競馬を使えなくて、4歳で繁殖になったんです。初仔が2勝したマイネルヤマト、2番目が公営でオープン馬になっているヘイセイクラウド。ナムラコクオーは3番目。コクオーの種付けのときにはまだヤマトはデビューしてませんから、配合検査でどうかな、とは思っていたんです。ケイジョイナーはサドンソーの仔だけれど、サドンソーはノーザンテーストの全弟とはいっても、テーストとは種牡馬成績がずいぶんちがうからね。それでもなんとか配合検査に受かって抽選も当たって種付けできたんだから、運が良かったね。
 ウチみたいな小牧場は、真面目にコツコツやることはもちろんだけど、大きな牧場だったらお金でできることをするためには、運の力を借りないとできない。ミホノブルボンがやはり小規模牧場の馬で、あの時には「ウチも頑張ればブルボンみたいな馬を出せるかも」と力づけられたけれど、コクオーがここまで走ってくれて、知り合いの個人牧場の人たちが「励みになるよ」と言ってくれるのがうれしい。
 コクオーは、小さな怪我の多い馬だったね。ヤンチャなんだ。強い馬に向かっていく。負けず嫌いなのかなあ。ほかの馬とよく相撲取ってましたよ。柵の近くでやるから、柵にぶつかって怪我するんです。よく湿布した思い出があるね。
 皐月賞は出られなかったけれど、その前に厩務員さんが「追い比べになったらナリタブライアンには負けない」と言ってくれたんで、意欲は湧きますね。勝ち負けはともかく故障せずにダービーに出てくれるだけで満足。ただ、ゲートが開いたら夢中になるだろうけどね。「とにかく行けー!」って感じか(笑)。

(以上、Number340号)

 そして、馬劇場の厩舎訪問が(おそらくダービーに出走するコクオーにあわせて)野村厩舎を対象に。関連部分のみ抜粋。
―― ナムラコクオー、皐月賞は屈腱炎で残念でしたね。ダービーへ向けてはどうでしょうか。
(コメント野村師、以下同)「この馬は気性が激しいから、それをうまく出してくれればいけると思うんだけどね。あとは運だけ。“神のみぞ知る”というところです」
―― コクオーはどんな馬ですか。
「まあ、子供だね。気性がきつく、暴れ出したらなかなか止まらないやんちゃな面もあるから、外では物音にすぐ反応して、カーッとなってしまいます。でも、人に対しては従順で、手入れの時も厩舎でも大人しい。この気性がコクオーにとって長所でも短所でもあります。それに、まだまっすぐ走れないんです。折り合いも馬の後ろにいるとそうガンガンいく方ではないし、落ち着いているけど、前にいったらダメです。レースではこの気性の激しさがよい方に出ればプラスになりますが、そうなるには時間がかかるでしょう」
―― 入厩当時の印象はどうでしたか
「はじめはオープンなんて期待していませんでした。競走馬は900万下までいけば合格だから、期待はその程度でしたね。いけるかな、と思うようになってきたのは3〜4走目からです。最初はダートのレースを走らせ、普段の調教よりレースを使ってトレーニングをしてきました。実戦を経験するたびに力をつけ、精神的にも大人になってきた馬です」
―― ダービーを前に、ナリタブライアンと比べてどうですか
「ナリタブライアンの方が精神的にだいぶ大人だと思います。余裕のある走り方をするし、騎手の指示どおりに動きますから、コクオーは気性も激しいし、乗り役に反抗することもあるから、調書を引き出すのは難しい。現時点では、ブライアンとコクオーは青年と少年ほどの違いがあります。逆に、これからまだ成長するという未知の魅力はあります」
(中略)
―― 今後の目標は何ですか
「ナムラコクオーといういい馬に恵まれましたから、コクオーでG1をとりたいです。そのなかでもやっぱりダービーを…。でもこればかりは思い通りになるとは限らないから、焦らずに1頭1頭を万全の仕上げで出走させられたらいいと思っています。あとの結果はおのずとついてくるものです」
森次男調教助手
「中村厩舎が解散になってから半年修業に出て、野村厩舎に入りました。野村先生は私の兄弟子に当たります。今は、追い切りの時以外の調教は全て任せてもらっています。温厚な人で、失敗しても怒られたことはありません。気持ち的には楽ですが、しっかりやらなければという気になります。
 コクオーの皐月賞回避の時は落ち込みましたね。ほかにも1,2頭潰れてしまい、厩舎が沈んでいたんです。こんな時でも先生は『これは初めての経験だし、今度いい馬が出てきたときに生かせばいい』とおっしゃっていました。あのアクシデントで馬を無事にレースに使えるというありがたさを身をもって知りました」

(以上、馬劇場1994年7月号)


―― 打倒ナリタの一番手ですね。
野村師 今週のけいこ時計は速かった。動きも文句なかったし、出来はいい。前走、久々を克服していい勝ち方をしてくれた。今回出走する上で大きなプラスだと思っている。馬場が渋ってくればさらによし。勝つレースをさせたい。
朝追い情報
ナムラコクオーは例によって角馬場から内コース。幾分馬体はふっくらと落ち着き払った姿。前走以上の気配で、今がピーク。
(以上、競馬エイト)
情報最前線
「前走余裕残しで圧勝。追い切り後もカイ食いが良すぎるくらいで、元気一杯。ブライアンと体を並べて追い比べに持ち込みたい」と野村師
関西馬チェック
2走目のポカは表面的に考えられないが、絞れていないのでは。直前追いをやれるかどうか、これひとつにかかっている。
芳賀TM
攻め馬が終わった後、野村師が"食いが良すぎていくらか太い"と言っていた。ただ、輸送と土曜にビシッとやれば丁度いいかも
(以上、サンスポ)
枠順確定後の話
野村師
 馬場が良かったこともあるが、追いきりは馬なりで一番時計。余裕残しでこの動きなら、万全の状態でレースに臨めると思う。NHK杯は少し折り合いを欠いたので、もしナリタに負けるとすれば、その辺だろうね。
(ホースニュース馬)
 馬体が太目か否かは難しいところですが、個人的にはサンスポでの野村調教師の強気コメントが気になります。「前走余裕残し」…ちょっとびっくり。こんな発言してたんですね。
 それと、蛇足ながらもう一つ。アベコーがノーザンポラリスに本命打ってた…
さあ、いよいよダービー発走です!

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