フジヤマケンザン
マスコミに葬られた国際GUウィナー
この馬には悲劇性・ドラマ性が無い。まさに僕好みの馬だ。
しかし、彼のような馬は、マスコミに嫌われやすい(オグリキャップとイナリワンを比べれば分かる)。そして、同期の二流馬(イマイチ馬)ナイスネイチャや、シャコーグレイドらの仲間となった。(この世代、他にもイマイチGT馬イブキマイカグラや、ツインターボ、ダイナマイトダディなど、なかなか面白い)
ところが、1995年12月10日、歴史的大事件が起こってしまった。「二流馬」フジヤマケンザンが、なんと、フジノオー以来、およそ30年ぶりに、日本生産・調教馬として、海外で勝ってしまったのだ。これは、本当に、勝って「しまった」である。これが日本なら、「イマイチケンザン、ついに勝つ!!」で済んだ。だが、場所は香港、イギリスである。
マスコミ側の予定としては、前年の4着を上回る3着くらいにおさまって、「ケンザン、海外でもイマイチぶりを発揮」とかいう見出しで、「あ〜残念だったね。でもまあやっぱり、これが君の力の限界ってやつかな。海外で勝つってのは、そんなに甘ったるいもんじゃないんだよ。」と、優しく慰めて、「やっぱりGT馬じゃなきゃ」と言いたかったのである。そして、「なんてったって、ヤネが日本ですらGT勝てない蛯名正なんかじゃなくて、天才武豊じゃなくっちゃ」と言いたかったのである。
現に、同年秋の、GT馬ダンスパートナーのフランス遠征では、マスコミ側に、「勝って欲しい」という願いが強く出ていた。なんてったってオークス馬。そして、鞍上にはムチ一本で世界を渡り歩く予定の(猿岩石の真似?)若き天才武豊。日本のGT馬と、日本のトップジョッキー(あくまでマスコミがそう言ってるってだけのことだぞ)が海外で勝つ。これぞマスコミの思惑通りのドラマだ。
その一方、ケンザンの場合、マスコミ側に、「好走(1着ではない)して欲しい」という、思いが感じられた。そして、「こいつ(ケンザン)には勝って欲しくなかった」という思いも感じられた。GTを勝てない二流馬とヘタクソ(この場合はエビショーを指す)甘いマスクでファンを魅了する(と言われている)武豊に対し、蛯名正義はごついマユゲでファンを怖がらせている。非GT馬と、非GTジョッキー。マスコミにしてみれば、まさに最悪のコンビが勝ってしまったのだ。マスコミのショックは大きい。
もはやマスコミに悲劇・感動・ドラマを作り出す力など残っていなかった。「テンポイントの果たせなかった海外制覇の夢を、一族(『テンポイント一族』という表現はおかしい。『クモワカ一族』であるべきだ。どーでもいーが)のケンザンがかなえた」というドラマが話題になってもおかしくなかったのに、ならなかった、ということは、マスコミのショックの大きさを表しているといえる。
で、ケンザンはマスコミに無視された。蛯名正も無視された。香港国際Cは国際GUであるが、香港ではGTだ(つまり、安田記念と一緒)。だが、マスコミはケンザンをGT馬として認めるわけにはいかなかった。(ただ単に認めなかったのではない)蛯名正がバブルで秋天を勝った時、誰も香港のことに触れなかったのには、驚きを通り越してあきれてしまった。
こういう例は、ケンザンに限ったことではない。96年のドージマムテキも、香港で小差の2着に入ったが、ダンパが2着に入った時の騒ぎに比べれば、本当にちっぽけなものだった。ドージマよりも、ボロ負けしたシーズグレイスに、というより福永祐一に注目が行っていた。何を考えているのだろうか。
更に愚痴らせてもらうと、さっきちらっと出たフジノオーも、相当迫害されている。中山大障害4連覇、日本馬初のヨーロッパ遠征(戦争中にも無かったのではないか?ちなみに、初の海外遠征はアメリカに行ったハクチカラ)、グランドナショナルトップハンデ、唯一の海外2勝馬、と派手な宣伝文句はあるが、「障害=マイナー」、「障害は平地のクズの集まり」というイメージを保つために、JRAとマスコミの共同作戦で無視されている。メジロパーマーは障害で失敗して平地に戻ったこと、ダービー馬に勝ったメジロスズマルは、阪神障害S(春)で1着のナリタライジンから4秒6の大差をつけられた障害のクズであること、これらのことはJRAマスコミ内では禁句である。先日、大穴をあけたテンジンショウグンも、前走の阪神障害S(春)では、大惨敗を喫している。
ついでだから、更に愚痴ると、さっき出たハクチカラは日本では無敵だったかのように思われてるけど、彼は4歳時の有馬記念(中山グランプリ)ではメイヂヒカリに子供扱いされて、着外だったし、キタノオーという、れっきとしたライバルもいた(キタノオーはハクチカラに勝ち越してるし)。しかし、「世界で勝つのは日本のトップ」というマスコミの方針上、キタノオーは闇の中に葬られた。(別にキタノオーの死はマスコミの暗殺だ、って言ってるんじゃないぞ)
愚痴おしまい。で、結局ケンザンは、ひっそりと引退してしまった。マスコミの扱いはアイルトンシンボリと一緒であった。
しかし、それにしてもケンザンは凄い奴だ。だって考えてみよう。中日新聞杯と香港国際C、両方勝つ馬なんて、今後でないだろう(オースミマックスや、ツルマルガイセンが海外で勝つ姿は、武豊がダー
ビー勝つ姿と同じくらい考えにくい)。それに、関西馬のくせに、阪神で走ったのはラストレースとなってしまった宝塚記念のみ。阪神より、香港で走った回数の方が多いとは…ムチャクチャな奴だ。
フジヤマケンザンはフジノオー同様、マスコミに葬られた。ケンザンも宣伝文句が多い。ラッキーキャストの最高傑作(おいおい)、史上3頭目の9歳平地重賞制覇、史上初めて国際グレードレースを海外で制覇(日本ではトウカイテイオーや、ケンザンと同厩のレガシー、そしてマーベラスやタイキブリザード等)…。
日本は面白い国だ。内国産の、国際重賞勝馬は生産界で不人気だが、それが外国産なら大人気。「日本馬の海外遠征を」と、JRA・マスコミ一体となって叫びつつ、実際に勝った馬を冷遇する。
マスコミに葬られたフジヤマケンザン。せめて、彼のファンだけでも彼のことを覚えていてあげよう。もしかしたら、彼の子が大活躍するかもしれんのだ。(なんてったって、父のラッキーキャストは筋金入りのマイナー種牡馬だ)
日本の馬たちよ!フジヤマケンザンを目指せ!!(…どういう意味でかは各自に任せる)