五輪野球、プロ参加の是非を問う


 シドニーオリンピックが終わりました。金メダルの期待も高かった野球は結局メダル無しの4位に終わりました。この敗因はどこにあるのでしょう。次につなげるという意味ではなく、純粋に今回負けた原因を探っていこうと思います。

 まず、どこでも言われていることですが、捕手。配球や捕球などあちこちで問題が目立ちました。私はあまり配球の妙とかはわからないのですが、1番痛感したのが(見ていたのが)予選の韓国戦。松坂が投げていたのですが、初回、先頭バッターの時に、いい感じの立ち上がりだな、と感じていたのにもかかわらず、めった打ちされてしまったのです。キャッチャーのせいだな、と直感しました。たしかにストレートは走っていたはずなのにあれだけ打たれたというのは配球が悪かったんだな、とわからないなりに勘付いたわけです。次の日の新聞にもそんなことが書いてあって、やはりそうなんだなと納得しました。決勝トーナメントのキューバ戦での黒木の暴投も止めて欲しいところでした。やはりキャッチャーは今回の敗因として1番大きなものだと思います。ただ、そうだとしても鈴木選手は精一杯がんばっていたと思うのです。鈴木選手は、今手元に資料がないので正確なことはわかりませんが、今シーズンやっとスタメンでも使われたくらいの選手のはずで、こういう、大衆の注目を集め、プレッシャーのかかる試合を経験したことは無いはずです。明らかに古田選手の代役であり、力が落ちることは元からわかっていたのです。どちらかといえば、あの大舞台でよく活躍した部類に入ると思います。

 ではなぜ古田選手は出られなかったのでしょう。ヤクルトオーナーの反対が原因だったはずです。本人は行きたがっていましたし、決定権が無いとはいえ、監督も本人の意思を尊重する態度をとっていました。そこに突然オーナーの反対にあってお流れになってしまったのです。最後まで決定を先延ばしにして、オーナーの許可が出るのを待ちましたが、結局だめでした。しかし、オーナーの優勝を狙いたいからという理由はもっともなものです。特にセリーグは、他のチームはまったく主力選手を出していないのに、ヤクルトだけチームの柱を欠くことになれば、当然大きな不利になります。オーナーたるもの、というよりチーム関係者、そしてファンも含めて、確率があるのなら、優勝を目指さないわけはないので、この理由は正論だと思います。そう考えると、シーズン前から五輪に行きたいという発言をしていた古田選手の方がおかしいように私には思えるのです。プロとしてお金を稼いでいる身分なのですから、チームの優勝を最優先させるのは当然です。それなのに、まさに優勝を争っている、そして優勝が決まろうかとしている時期にチームを離れることを了承するというのは私には信じられないのです。たしかに今回オリンピックに出た選手、特に優勝争いを経験したことの無い選手には、非常に貴重な経験ができたと思います。あのプレッシャーの中で野球ができたというのはこれからの選手生活において、必ず役に立つと思います。アマとの交流という面でも大きな意味を持ったでしょう。ただ、それを求めるためだとしてもこの時期にチームを離れる気が起きるというのは考えられません。古田選手など、もうチームの日本一も何度も味わったし、今年のチームで優勝を狙うよりは日の丸つけてシドニー行って後進の指導でもしようかな、とか考えているような気さえしました。そう思われても仕方ないと思うのです。各チームが主力選手を1人ずつ出すことで合意したパリーグでも、アマ側から指名があったイチロー選手など2人は(初芝選手でしたっけ)五輪行きを拒否しました。私はこっちの方がプロ選手の取るべき態度だと思うのです。いくらリーグがそういう方針を決めたからといっても、自分はチームを離れることはできない、と言い切って欲しいのです。それでこそプロの選手だと思います。とすれば、プロ選手は参加しなくていいのか、ということになりますが、ここで今回の敗因のもう一つ大きなもの、プロとアマの格差が浮かび上がってきます。

 プロとアマの格差。ここでは数字は出しませんが、明らかにプロとアマとでは成績が違いすぎました。打線が切れてしまっているのです。プロを並べた3番から6番あたりで点が取れなければ、はいおしまいといった感じで、予選リーグのアメリカ戦など、延長に入って中村、松中両選手が引っ込んだ後はまったく点が取れる気配がせず、あとは杉内がどこまで持つかだけといったような試合でした。とにかく、プロとアマの実力の違いはあまりに大きなものだったのですが、これも事前にわかっていたはずのことでした。プロの2軍とならともかく、一部とはいえプロのトップが出ているのですから、アマのトップと同じでは困ります。つまりこういった打線になってしまうことは目に見えていたのです。

 今までの私の意見をみると、プロはオリンピックには出ずにペナントレースに全力を注ぐべきであるが、それではアマだけになってしまい勝てない、となります。それではどうしたらよかったのでしょう。

 ・セリーグも主力選手1人ずつ出せばよかった。

これでは今まで言ってきたことに反します。とにかくプロ選手はチームの優勝を第一に考えて欲しいのです。そもそも1人ずつ出せば公平だという意見からして高慢です。そんなはずはないことは誰の目にも明らかです。これは西武オーナーの堤氏が、五輪関係の役職(日本オリンピック委員会の名誉会長)も兼任しているため、その立場上この意見を出して、他のオーナーも逆らえなかったという経緯があったと思います。セリーグも巨人オーナー渡辺氏に従い、一定人数のプロテクトをかけることになったのです。セリーグとパリーグの足並みがそろわないことにコミッショナーの力の無さが現れていますが、それにはここでは触れません。

 ・パリーグから2人ずつ出せばよかった。

上のと同じようにここで述べてきたことには反しますが、1人ずつ出して公平だという意見が成り立つのであれば、いっそのこと2人出してもよかったのではないかということです。2人ずつ12人いれば、ある程度まともな打線が組めますからね。ただ、それではアマ選手の出場機会が奪われるという新たな問題が浮上します。そのことについてはまた後で書きます。

 ・シーズンを中断して、プロのオールスターを出せばよかった。

ここまでするのならプロの出場に対して文句は無いわけですが、いかんせん時期が時期なだけにそれは不可能だったでしょう。いざ優勝が決まろうとしている時に中断なんてされようものなら興ざめもいいとこです。

 ・ペナントレース前半戦終了時の(オールスター前)最下位のチームを派遣。

それも面白い。

 結局あまりいいと思われる案はありません。今回はアマだけで行ってその意地にかけてみるのもよかったかもしれません。当然もっと苦しい試合になっていたでしょうが、それならそれで、プロを出せという世論が沸きあがったかもしれません。そうなれば、プロのオールスターという話も出てくるでしょう。つまり、私の理想としては、やはりペナントレースを中断してでもプロのオールスターを出して欲しいのです。今回のような一部選手だけ派遣では気がすまないのです。アマの立場はどうなるのかという意見もあるのですが、実力のある選手を出そうとしているのですから、反対する必要はないと思います。五輪は、アマ、社会人野球の目標としての役目は終わったのです。プロの参加が認められるようになったのですから、オリンピックに出たい人はプロで野球をやっていけばよい時代になったのです。今まではプロは出られなかったため、オリンピックに出たい人はプロにはなれなかったのですが、もうこれからはそういうものだということになっていけば、納得するでしょう。オリンピックが最強のメンバーを求めているのですから、それに合わせるべきだと思うのです。

 4年後のアテネ五輪の日程がわからないので、はっきりしたことは言えませんが、日本のプロ野球界には、ペナントレースの中断なども含めた、柔軟な対応を期待します。