ナムラコクオー物語(3歳編)
ナムラコクオーの最大の欠点は脚が弱いことです。しかも、尋常じゃなく弱いことです。
そんなナムラコクオーが選んだデビュー戦はダートの1200m戦でした。ダートになったのは、もちろんキンググローリアスの特性もありますが、もう一つ、「脚への負担が少ない」という、非常に大きな理由があってのことです。オープン馬マイネルヤマトの下という血統でしたが、気性的な幼さなどが不安視され、経験馬2頭を含む7頭立て5番人気にすぎませんでしたが、2着入線。出遅れるなど、気性的な問題点は見られましたが、まずまずの結果。
上村騎手:トモに甘さが残っていてダッシュが今イチ。前半ちょっと掛かり気味になったけど、馬の後ろにつけたらスムーズ。攻めと同じで、しぶといところを見せてくれた。
次走へのメモ:2人引き。少し太かった。内々を好手応えで追走し、叩き合いでしぶといところを発揮。根性がある。
(by 競馬ブック)
折り返しの新馬戦、今度はダート1400mに出走です。小頭数だった前走とは変わって14頭立て。前走2着が評価され、3番人気。しかし、マイティスマイルのレコード勝ちの前に完敗の2着。
上村騎手:前2頭の直後で絶好の流れ。勝てるかと思ったんですけどねえ・・・・・・。まあ、相手が強かったですし、すぐこの馬もチャンスがあるでしょう。あとはゲートがもうちょっとスムーズになればですね。
次走へのメモ:スタート一息もおっつけてすぐに好位へ。3〜4角バラけたところを前2頭の直後まで接近。相手が強すぎた。
(by 競馬ブック)
ナムラコクオーは2週後、ダート1400mの未勝利戦に出走。新馬戦連続2着の成績から、当然のごとく1番人気。しかも1.2倍と圧倒的。そして、期待に応えて好位から抜け出して完勝。初勝利。
上村騎手:好位を楽な手応えで追走できた。直線で外からスナークがきても、余裕があった。順当勝ちです。
次走へのメモ:順当勝ち。内々を慌てず騒がず周りを見ながら進む。一戦毎に走りがしっかりしてきており、伸びは確か。
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晴れて未勝利を脱出したコクオーはもちの木賞(ダート1400m)に出走。ナリタリュウオーとともにハナを切りましたが、ロジータ産駒のシスターソノ(のちにエルフィンS2着など)の2馬身差2着に敗北。ちなみに、このレースには後の重賞勝ち馬で、皐月賞、ダービー、天皇賞にも出走したメルシーステージも出走していて、6着に敗れています。
上村騎手:今日は凄く気合が乗っていました。そのため掛かってしまって・・・・・・。まともなら際どかったでしょう。ダートの短距離なら走ります。
次走へのメモ:掛かり気味に前へ。ナリタをマークして並んでいく。追い比べでクビ交わす。
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ナムラコクオーは中3週で今度は平場の500万下(ダート1200m)に出走。ここで今までのレコードを0.4秒縮め、1.12.4でレコード勝ち。2着に7馬身差をつける圧勝。
上村騎手:道中も楽だし、ゴール前も抑える余裕。ダートの短距離戦ならかなり能力がある。
次走へのメモ:好位を引っ張りきりの手応え。4角でも前の馬がふくれてうまく内を突く。直線ぶっちぎって最後は抑える余裕。レコード勝ち。
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とまあ、ここまでは味も素っ気もない紹介に終わったんですが、それは「NPとナムラコクオー」のコーナーで述べた通り、コクオーを意識したのがかなり遅く、条件戦に関しては成績表とにらめっこしながらでしか書けないからです。
ラジオたんぱ杯3歳S
さて、ダートの短距離で素質を開花させつつあったコクオーは、突如?芝の2000mG3、ラジオたんぱ杯3歳Sに出走。前年はナリタタイシンが清水騎手とのコンビで勝ち、クラシックロードに突入した、重要なレースです。
93年の1番人気はパリスナポレオン。武豊が「スーパークリークとメジロマックイーンを足して2で割ったような素質の馬」という評価をしていた馬です(後にダートでも活躍します)。ここまでまだ1勝でしたが、連対率は100%。クラシックへ向けて素質の開花が期待されていました。2番人気はタイキパイソン(後にダートレコード勝ち、障害入り)。いわゆる「藤沢和-タイキ」コンビです。鞍上は関西No.1の河内騎手。この2頭が単勝オッズ一ケタで、ナムラコクオーは距離・芝適正に大いに不安があるも、前走の鮮やかなレコード勝ちが評価されて、6番人気、単勝18.8倍と初芝、初距離にしてはまずまずの人気。
そして、レースは初芝、初距離の不安を一掃するあまりに強い勝ちっぷり。3〜4コーナーですーっと前に進出し、4コーナー2番手から直線抜け出して、終わってみれば2着のパリスナポレオンに4馬身差。朝日杯3歳Sを圧勝したナリタブライアンの協力なライバルにのし上がるとともに、ファーストクロップサイアーランキングでブライアンズタイムを抑えて1位になった父キンググローリアスに祝砲。
参考までに、歴代ラジオたんぱ杯3歳Sの勝ち馬を掲載します。ここをご覧下さい。いかにこのレースがクラシックに直結するかがお分かりいただけると思います。
上村騎手:レース前から折り合いさえつけば勝負になると思っていたんです。発走直後に掛かりはしましたが、すぐコーナーで折り合いました。3コーナーあたりでは少し早いのを承知でゴーサインを出したんです。直線もしっかり伸びてくれましたし、本当に強い内容でしたよ。これなら来年のクラシックが楽しみです。
次走へのメモ:初芝、初距離もなんなく克服。道中掛かるどころか3角すぎでは気合を入れるほど。外目を回りスーッと上がっていき、他馬を引き離す。来年が楽しみになった。
(by 競馬ブック)
野村調教師
夏の小倉を予定していた馬なんですが、化骨が遅れていたためにデビューが秋までずれ込んでしまったんです。
1週前に本馬場へ入れたときの動きがよかったので、芝への不安は全くありませんでした。父がミスタープロスペクター系だから距離が長いかとも感じましたが、同系のミスワキからは凱旋門賞を勝ったアーバンシー、それにマーベラスクラウンもいるから大丈夫だろうと思っていました。
馬の状態は最高でした。2勝馬が外に頭だけなので相手関係にも恵まれました。レースは期待どおり。馬ごみの中でも折り合っていたし、半マイル過ぎで上がっていったところで勝利を確信しました。このレースぶりなら距離が延びても大丈夫でしょう。癖がなく、レースがしやすいのがこの馬の長所ですね。
上村洋行騎手
今回が初めての芝レースだったんですが、脚の長い馬なので芝のほうがいいんじゃないかと思っていたんですよ。だから、レース前からある程度の自信はありましたよ。
折り合いだけに気をつければいい結果につながるとは思っていました。スタート直後は掛かってしまいましたが、すぐに折り合ったのでホッとしました。道中の手応えがよかったので、「少し早いかな」と思ったんですが、3コーナーから外々を回って上がっていったんです。直線もまったく脚色は衰えませんでしたね。4コーナーで「勝てる」と確信するほど手応えがよかったんですよ。
今後は少し休ませてから来年のクラシックを目指したいと思っています。2000mの距離を克服できたのが大きな収穫でしたね。僕自身は今年50勝目、しかも重賞勝ちとはうれしさもひとしおです。
伊藤真継氏
これまで1200、1400のダートしか走ったことのない馬で、初芝でいきなりの距離延長だったでしょう。芝はともかくやはり距離は心配でしたから、まさか勝てるとは思っていなかったんです。それがあんな勝ち方をしてくれましたからね。まったく予想外でした。
この馬の兄が京成杯2着のマイネルヤマトなんですが、兄よりも馬っぷりはよかったように思います。でも馬っぷりで走るわけじゃありませんかrね。競馬というのはやはりやってみないとわからないですから。ええ、牧場にいたころは本当に順調に育ってくれましたね。
馬主さんとも話したんですが、この馬は奈村オーナーに買ったいただいて、九州の吉永さんのところで育成されて、野村先生に管理していただいて、と最良の道を辿っているんです。それがこの馬にとって一番いい流れになったと、つくづくそう思いますね。
(以上「優駿」)
上村洋行騎手
「心配だったのは折り合い面だけだった。状態はすごく良かったから。
で、初めての芝でも折り合いさえつけばいい競馬になると思っていた。
スタート直後かかるところがあったけど、すぐコーナーになって馬ごみに入れたら折り合った。
3コーナーから早めに動いたのは作戦どおりで、早めに動いたけど末脚はしっかりだった。」
(競馬報知)
こうしてクラシックへの登竜門を完勝したコクオーは、シンザン記念に駒を進めました。シンザン記念とは、みなさんご存知の通り、「いまだに勝ち馬からクラシックウィナーを出していないあわれな重賞」です(※タニノギムレットがその後よーーーーやくジンクス打破)。たんぱ3歳→シンザン記念というのは、前年のナリタタイシンも使った、いわば王道に近い路線ではあるのですが、タイシンはちゃんと?負けました。